大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和30年(ナ)7号 判決

原告 岡田亀太郎 外四八名

被告 徳島県選挙管理委員会

主文

昭和三十年(ナ)第五号、同第六号、同第七号事件につき原告等の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用中右各号事件につき生じた分は夫々その原告等の負担とする。

事実

昭和三十年(ナ)第五号事件につき原告等は昭和三十年四月三十日執行された徳島市議会議員選挙は全部無効なることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め請求原因として左の通り陳述した。

(一)  徳島県徳島市は昭和三十年四月三十日徳島市全域に亘る同市議会議員の選挙を執行した。原告山内安高は同年五月十四日徳島市選挙管理委員会(選挙管理委員会のことを以下単に選管委員会と略称する)に対し右徳島市議会議員選挙の全部無効並に最下位当選人森三四郎の当選無効を求めて異議申立を為したところ、之に対し同市選管委員会は同年八月八日異議申立棄却決定を為し、該決定書は同年同月十一日原告山内安高に交付せられた。そこで原告山内安高等は同年同月二十九日被告に対し右棄却決定を不服として前示選挙の全部無効を求めて訴願に及んだのであるが、被告は同年十一月二十三日「昭和三十年八月八日付徳島市選挙管理委員会が異議申立人山内安高に対してなした決定はこれを取消す、昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙は第二開票区に限り無効とする」旨の裁決を為し、同月二十四日右裁決の告示がなされ、原告等は同月二十五日右裁決書の交付を受けた。

(二)  原告等は同市在住民として、選挙権、被選挙権を有するので、同市議会議員候補者として立候補したのであるが、開票の結果島田武雄以下四十名が当選者として発表せられ、原告等は不幸落選したものであるところ、右選挙の管理執行に関しては次の如き違法が行われているので該選挙は全部無効と謂うべきであるから、右裁決は不当である。仍て之を不服として本件選挙全部無効の確認を求めるため本訴請求に及ぶ。

(1)  徳島市選管委員会職員由利武雄は昭和三十年四月三十日徳島市佐古第一投票所において投票事務に従事中市議会議員投票用紙五十枚束一束を窃取し、之を長女(当時七歳)をして自宅に持ち帰らせた上、同人の父由利直衛に交付し、右由利直衛は同日午後二時頃同市議会議員候補者たる原告山内安高の選挙事務長深谷政一と共謀して内四十七枚に右山内安高の氏名を記入して投票を偽造し、翌五月一日同市第二開票所たる加茂小学校に之を持参して同所において開票事務に従事中の前記由利武雄を場外に呼出し右山内安高の氏名を記入せる偽造投票用紙四十七枚を手渡し、右由利武雄は現に開票中に開票立会人のいる席上秘かに右投票用紙全部を開票中の投票に混入したのである。そこで開票の結果において投票者総数と投票数とは当然に一致を欠ぐに至つたので同開票所の同市選管委員会職員西岡敏夫はその数を合致せしめることに苦慮し開票中同現場において投票中より約四十枚を抜取り同係員小倉孝の手を経て同選管委員会選挙係長浜利喜雄に手渡し同人の手によつてこれを廃棄処分したのである。勿論原告阿部芳太郎を除くその余の原告等は右抜取りの投票が孰れの候補者への得票であるかは判明しないものである。原告阿部芳太郎に関しては右訴外人が抜取つた投票は同原告への投票である。しかも開票管理者は右約四十枚を除外してその開票区における有効得票数を確定したものである。

以上の如く投票並開票等選挙の管理執行をなすべき職責を有する市選管委員会職員のなした不法行為は亦当然に公職選挙法違反の行為に該当するものであると同時に右行為は選挙の結果に重大な影響を及ぼすものであつて、只に一開票区の選挙のみならず全開票区の選挙につき、その自由公正を害するものと謂うべきである。従つて市選管委員会職員のした右の如き不法行為は只に第二開票区の選挙のみならず、全開票区の選挙を無効ならしめるものと謂うべきである。

(2)  仮りに然らずとするも、第二開票区以外にも次の如き選挙法規違反の事実がある。

(イ)  昭和三十年五月一日第一開票所で開票記録係たる市衛生課書記橋本仁助は投票数と投票者総数とが一致しなかつたため、之を一致せしめるため、十数票の白票を投票中に混入した。処がそのため却つて投票数が投票者総数より多くなつたので市選挙管理委員会職員辻八郎が四票又は二票を抜取つた事実があり、同人は右事実により同年七月六日徳島簡易裁判所で前記投票不正増減罪で罰金一万円に処せられたのである。

(ロ)  同年四月三十日渭東第一投票所(福岡小学校)において当時市選管委員会職員であつた坂野茂樹は徳島県板野郡土成町宮川内に居住しながら徳島市選挙人名簿に虚偽の登録申請をなし、市議会議員選挙に詐偽投票を行つた事実があり同人は右事実により同年十一月八日徳島地方裁判所で禁錮四ケ月執行猶予二年公民権停止五年の判決言渡を受けた。此の投票所は第一開票所区域内に属するから第一開票所における投票中に右選挙法規違反の無効投票が一票混入していたことになる。

従つて右(イ)(ロ)の事実は第一開票区の選挙の結果に影響を及ぼすこと明かであるから同開票区の選挙は無効と謂うべきである。

(ハ)  本件市議会議員選挙は同市長選挙と同時同所において執行されたのであるが、右市長選挙の開票の際即ち同年五月一日第三開票所において市選管委員会職員貴志恭次、須本文武等は投票者総数と投票数を一致せしめるため女子職員と共に市長選挙の投票中よりその二十四枚を抜取つたと云う。更にその一週間前の県議会議員選挙の際も右貴志恭次は前記同様他人をして投票中よりその二枚を抜取らせたと云う。而して書損又は無智のため投票用紙を持ち帰る者等があるため投票数が投票者総数より少いことは往々ありうるのであるが、反対に投票数が投票者総数より多い場合は不正増票の疑が濃厚である。かような事実に加えて、次に述べるような同一又は類似筆跡の不正と思われる投票の多いこと投票用紙の受払の杜撰並その行衛不明の事実等を考合すれば、第三開票所においても第一開票所、第二開票所と同様に市議会議員選挙につき、投票の不正増減又は詐偽投票等が行われたものと察知せられ、選挙の結果に異動を及ぼす虞があることは明瞭である。従つて第三開票区の選挙も無効であると謂うべきである。

(3)  仮りに然らずとするも選管委員会は投票用紙の毀損散逸を防ぎ厳重管理の職責がある。徳島市選管委員会が徳島刑務所に依頼して調整した投票用紙は市長印まで印刷されており、その儘投票用紙として使用し得る重要なものであるから、之れが収納、保管並使用に就いては適正を期すべきであるに拘らず、徳島刑務所が市選管委員会に納付した投票用紙は総数十万一千三十六枚であるところ、同委員会において未使用保管中のものと既に使用済のものとの総数は十万八百六十三枚であつてその間二百七十三枚の相違を生じているのである。してみると右二百七十三枚の行衛についてはその内五十枚は前記(1)に述べた訴外由利武雄の窃取した分として之を除外するも尚二百二十三枚は行衛不明となる。即ち、市選管委員会職員坂野茂樹が徳島刑務所において同所技官近藤健介、看守豊富政三等より投票用紙を受取るに際りその数を正確に算えていない。それはともかくとするも刑務所から受取つた際十万包のほかに端数の千百三十六枚の包があつたことは確実である。而して此の投票用紙は常識上悪用されない限りは他の雑用に使用したり、これ丈切離して紛失したりするものとは思われない。

被告は投票用紙は収入役室の金庫に保管しその使用に当つては正確にその受払が出来たので其の管理には不備はないと主張するけれども、投票用紙の収納並保管に当つていたのは前記坂野茂樹及須本文武、辻八郎等の市選管委員会職員であつて、右坂野茂樹は前記(2)に述べた如く詐偽投票をした程の人物であり、又須本文武は昭和二十六年の市議会議員選挙の際当時の選管委員会事務局次長米延保之及由利武雄と共謀して投票用紙二百票の不正増減を行つたとの事実につき既に検挙の上刑事処分を受けているのみでなく、同三十年五月一日の市長選挙の際にも前記(2)に述べた如く第三開票所で投票用紙二十四枚を抜取つたことのある人物であり、又辻八郎も前記(3)に述べた通り右同日第一開票所(徳島市役所議場)で投票用紙の不正増減をした程の人物である。

加之後記(4)に述べる如く、本件全開票区に亘り不正増票と思われる同一又は類似筆跡による投票が五、六百票以上存在すると認められる事実がある。之等の事情を彼是考合すれば、前記行衛不明の投票用紙が二百二十三枚存在するということは本件選挙全体に亘り相当多数の投票用紙が不正増減に使用されていることを窺知するに足る。このようなことは本件選挙全部が自由公正に行われたことを疑わしむるに十分であつて、結局全地区の選挙の結果に異動を及ぼす虞ありと謂うべきである。

(4)  仮りに然らずとするも

(イ)  徳島市全地区の投票数中には代理投票によるものを除外して不正に投票された同一又は類似筆跡のものが五、六百票混入していた事実がある。右事実は昭和三十年七月三日附毎日新聞紙上に田辺検事正の記者団に対する談話として掲載された記事によつて、容易に推認せられるところであり同記事中に「選管委員会職員と特定候補者が結付きすり替えを行つた疑いが筆跡鑑定の結果などから推察されるが糾明できなかつた」とある。

之は市選管委員会職員が刑務所から受取つた投票用紙総数の不明確に乗じて第二開票所で前記由利武雄、浜利喜雄の行つた不正混入、抜取りと同様な犯罪を行つていないかの点につき捜査した結果の談話である。かくて制度上の投票代理者の筆跡を鑑定し、これら正当な同一又は類似と認められる投票用紙を除いて、其の他鑑定の結果正当と認め難い同一又は類似筆跡の投票用紙多数が存在していたことが判明した。その事から第二開票所に於ける前記由利武雄、浜利喜雄の行つたような不正増減罪が他の開票区をも含んで全開票区に亘り市選管委員会職員か或は他の何人かと複数の特定候補者との結付によつて行われた事実を肯定するに難くはない。

(ロ)  加之更に過去における徳島市選管委員会職員の不正行為のある事実から推測しても容易に右のような結論に到達し得るのである。

即ち、昭和二十六年に行われた同市長並に市議会議員選挙においても職員の不正行為が旺んに行われたのであつて、今回徳島地方検察庁の摘発によつて刑事処分を受けたものが多数ある。

(A) 当時の市選管委員会事務局次長であつた米延保之、市選管委員会職員須本文武は共謀の上市議会議員選挙の投票用紙約百枚を、又投票日の四月二十三日に第三開票所(富田小学校衛生室)で投票用紙約百枚を(その合計二百枚)窃取して開票所で某候補者の氏名を記入し、この内約六十枚を投票函へ混入した。

又前記須本文武には右事実と共に前記(2)の(ハ)において述べた昭和三十年四月三十日執行の市長選学に関する不正事実がある。

右事実について昭和三十年十二月二十二日徳島地方裁判所で米延保之は懲役一年六月、須本文武は懲役一年、執行猶予三年、公民権停止の判決言渡を受けた。

(B) 昭和二十六年度の右選挙の際鎌田現市議会議員に対しても投票用紙百五十票を金五万円で売込みに来たものがあり、又市長候補者桂兵次郎の所へも投票用紙を売込みに来たものがあるとも云う。又検察庁による選挙違反事件捜査の際派生的に選管委員会事務局長郡磯吉、同管理係長貴志恭次、元選管委員会事務局次長米延保之等が共謀で公金十数万円を横領した事件が発覚し、何れも処分された事実がある。

(ハ)  以上の如く市選管委員会職員は昭和二十六年度より同三十年四月の市議会議員選挙に至るまで互に気脈を通じ斯種違反を行つたものと察知することが出来る。

彼等選管委員会職員は選挙期日前は公明選挙のため、大勢となつて婦人会、青年団等を動員し、文書で、口頭で、又宣伝車を走らせて盛んに運動したものである。然るに真実は右にのべたような実態であつて、右刑事々件が昭和三十年五月以来今日に至るまで、新聞に、ラジオに大々的に発表された為、一般市民は其の真相を知るにつれて、彼等のために如何に選挙の自由公正が蹂躙せられたかに驚愕し、且忿怒の念に燃え上つたのである。

此際全面的に選挙をやり直して、公正なる選挙により公正なる市政を行うべきであると一般市民の声は大いなる輿論となつている事情がある。

(ニ)  以上摘示した事実に既にのべた(1)乃至(3)の凡ての事情を彼是考合すれば第一、第三開票区においても第二開票区におけると同様の不正が行われていることを認めるに十分であるのみならず、ひいては之等の事情が存在することは本件選挙全部の結果に異動を及ぼす虞あるものと請うべきである。

(5)  尚原告岡田亀太郎、同舟越縫夫、同阿部芳太郎、同篠原健平、同本田益徳の一部訂正補陳した点。

一、投票の不正増減について

(イ) 第二開票所における不正増票は直接他の投票用紙中へ混入した由利武雄すらその正確な数又は内容を知らないのであるから右は候補者山内安高への投票許りであるとは断じ得ない。更に又徳島市選管委員会で投票用紙総数の確認をしていない以上、前記混入した投票が由利武雄の窃取した五十枚の投票用紙に記入せられたものと断定することは出来ない。

又公職選挙法第五二条に依り投票の秘密保持の規定の趣旨からみてもその内容は必ずしも問うべきではない。

(ロ) 次に西岡敏夫が第二開票所で抜取つた約四十票及辻八郎が第一開票所で抜取つた二票は何れも候補者に非ざる者の氏名を記載したもの即ち無効票であるとは断定できない。又形式的にも公職選挙法第六七条により投票の効力は開票立会人の意見を聴いて開票管理者が有効無効の決定をなすべきものであるから、該手続を経ない以前に抜取つた投票は勿論無効票と断定することはできないと解すべきである。

二、同一又は類似筆跡の投票用紙が存在する点について。

筆跡鑑定の結果等から判断すれば本件選挙における投票中には代理投票並親子兄弟姉妹の投票による同一又は類似筆跡の存在する点を考慮に入れて、之等を除外するも少くとも数名の候補者の投票につき最高二十票(候補者一名につき)の同一又は類似筆跡のものが存在していた事実が確認できる。

してみると不正増票は第二開票所で由利武雄が行つたもののみでなく、他の開票所にも少くとも数名の候補者の投票につき不正増票のあつたことを認定するに足る。

三、昭和二十六年度地方選挙の際における不正について。

(イ) 前記米延保之、須本文武の公職選挙法違反及窃盗罪に因る徳島地方裁判所の言渡した判決に対しては高松高等裁判所に控訴中の処昭和三十一年五月二日控訴棄却の判決が言渡されたのである。

(ロ) 右事実のほかに米延保之と須本文武は共同で昭和二十六年度の徳島市議会議員選挙の際不正投票約四十枚のすり替えを行つた事実がある。

(三)  然るに被告は、前示裁決書において、原告主張の前記(二)(1)の点に対してその理由あることを認めたのであるが、只第二開票区のみの選挙無効を確認したに過ぎず、(二)(3)の点については二百七十三枚の差異あることについてはこれを認める根拠なしと認定し、(二)(4)の点についても原告の主張する筆跡に酷似したものがありとしても代理投票制度の認められた現行法上同一筆跡又は類似のものの現われることは敢えて異とするに足らずとして原告の選挙全部無効の主張を排斥したのである。然れ共原告は左の理由により被告の裁決には服し得ないのである。

(イ)  被告は原告主張の(二)(1)についてその事実を認め第二開票区の選挙無効を確認したのであるが、斯る不正事実ある以上他の開票区にも同様の不正行為は行われたものと推定し得られるところ、現に前記(二)(2)(イ)(ロ)(ハ)に摘示の事実があるから、全部の選挙無効を確定するのが相当である。

(ロ)  被告は原告主張の前記(二)(3)の点について二百七十三枚の投票用紙数の差異についてはこれを認めるに足る根拠なしとしたが、徳島市選管委員長谷光次は徳島刑務所にて印刷納入した用紙と選管委員会取扱数量との間に差異のある事実を自認しているのであるから、被告が充分の調査を為さずして根拠なしとしたことは失当である。

(ハ)  原告主張の前記(二)(4)の点に対し被告は代理投票のある以上その類似筆跡投票のあることは異とするに足らずとしているが凡そ代理投票については何人が何人の代理投票したかは容易に調査し得られると同時に、その筆跡も亦明白である。されば全投票中より代理投票者記載に係る票を選別除外しその残部の票中同一筆跡或は類似筆跡のものありや否やを見て、若しありとすれば同一人の不正投票と断定すること実に容易である。

然るに被告はその措置に出でずして只単に代理投票制度のある今日酷似筆跡投票の現われることは敢えて異とするに足らずとして、原告主張を排斥したのは不当も甚しいものである。

(四)  被告の答弁事実に対し原告主張に反する部分を否認し、特に次の通り述べた。

(イ)  被告は第一開票所において辻八郎が二票を抜取つたとの事実は認めるが二票では選挙の結果に異動を生ずる虞ありとは計数上認められないから、当該選挙を無効とすることは出来ない。と抗争するけれども徳島市議会議員選挙は全市一区である。ただ投票、開票は地域別に選挙事務の処理上、これを認定しているだけである。最低当選者と次点者との得票数の差は二十票である。そこで第一開票所の二票抜取りだけでは選挙の結果に異動を生ずる虞なしとするも、既に第二開票所で約四十票の抜取りがあるから、第一開票所の二票も当然之に合算してその選挙の結果に異動を及ぼすか否を判定すべきである。而してその結果選挙の結果に異動を及ぼす虞があるならば少くとも第二開票区のみならず、第一開票区の選挙も亦無効とすべきものである。

(ロ)  被告は又市選管委員会職員坂野茂樹が渭東第一投票所において不正投票したことは選挙無効の原因とはなり得ないと抗争するけれども、坂野は職務中の違反ではないが、いやしくも市選管委員会職員なるに拘らず、かような不正投票をなしたのは、普通人の同種犯罪と異り、選挙の公正を害すること大である。第二開票所における不正混入と其の性質上何等異るものではない。ただ一票であるが、之は前記理由により第二開票所の不正混入約四十票と合算すれば、選挙の結果により大なる異動を生ずる虞あることになる。これもまた第一開票区における選挙無効の一要因となる。

従つて右(イ)(ロ)点についての被告の主張は理由がない。

被告指定代理人は原告等の請求を棄却する訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め次の通り答弁した。

(一)  原告主張の(一)の事実は認める、同上(二)の事実中前段についでは原告等が孰れも徳島市の住民であつて、本訴提起当時選挙人名簿に登載されている有権者であること、原告等が同市議会議員候補者として立候補したこと、開票の結果訴外人島田武雄以下四十名が当選し原告等が落選したことは何れも認める。同上(二)の(1)については、原告主張のような投票用紙の窃取並に廃棄処分についての事実関係は認めるも其の余は争う。同上(二)の(2)についてはその(イ)の事実の内辻八郎が二票を抜取つたとの事実以外は之を否認する。而も辻八郎が抜取つた二票では選挙の結果に異動を生ずる虞ありとは計数上認められないから、当該選挙を無効なりとするを得ない。その(ロ)の市選管委員会職員坂野茂樹の詐偽投票をしたとの事実に因り処罰を受けたとの事実は之を争わないが、選挙権のない者が投票しても、かかる違法は選挙人の違法行為であつて、その投票は帰属不明の無効投票即ち所謂潜在的無効投票となるにとどまり、選挙執行機関の選挙の管理執行に関する規定違反でないから、当選無効の原因となることはあつても、選挙無効の原因とはなり得ない。従つてこれにより第一開票区の選挙を無効なりとする原告の主張は失当である。その(ハ)に記載の事項は市長選挙に関する事項であり、本選挙に関係のないものであるのみならず、仮りにその事実があつたとしてもこれにより本選挙につき、第一、第三開票区においてもその主張のような不正の事実ありと推断することはできない。同上(二)の(3)については納入した投票用紙と使用済及未使用保管中のものとの数量の差異が二百七十三票あつたとの事実は争う。仮りに差異があつたとするもその数量は判らない。被告の調査によれば、刑務所係官と市選管委員会職員との間における投票用紙の授受においては、双方共投票用紙を一々明確に確認していないのであつて、多少の差異はあるとしても、二百七十三枚の差異があると断定することは出来ない。しかし投票用紙の授受において枚数の詳細が明確でないとしても、そのことのみをもつて直ちに選挙の規定に違反するものということはできないのであり、更に市選管委員会職員が刑務所より投票用紙を受領した後、直ちに収入役室の金庫に厳重に保管し、必要の都度、係員によつて引き出され、受け払いが正確になされていることが明かであり、市選管委員会職員による投票用紙の管理に不備があり、投票用紙が不正に使用されたと見るべき余地はないのであるから、原告の請求は当を得ない。同上(二)の(4)(イ)については、原告主張の同一又は類似筆跡の不正投票ありとの点は否認する。仮りに類似筆跡のものがあつたとしても、投票者中には親子兄弟姉妹の関係ある者があるので、筆跡が類似するのは実験則上当然のことである。之を目して不正投票とはいえない。殊に代理投票の制度が認められている現行選挙法においては、投票の同一筆跡のものが現われることは敢えて異とするに足りない。同上の(ロ)において主張する事項は主として昭和二十六年度の市議会議員選挙の際における事項であつて何れも本選挙には関係のないのみならず、仮りにその事実があつたとしてもこれにより本件選挙につき第一、第三開票区においてもその主張のような不正の事実ありと推断することはできない。

(二)  其の余の原告主張事実は争う。

仍て原告等の本訴請求は理由がないから棄却すべきものとする。

(立証省略)

昭和三十年(ナ)第六号同第七号事件につき原告等訴訟代理人は昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙の効力に関し被告が同年十一月二十三日付をもつてした各裁決の無効なることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を、予備的に、昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙の効力に関し被告が同年十一月二十三日付をもつてした各裁決は之を取消す前項の選挙を有効とする訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め第一位の訴の請求原因として、次の通り陳述した。

(一)  原告等は何れも昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙の選挙会において当選人と決定され現に同市議会議員の職にある者である。

(二)  同年五月十三日落選候補者山内安高は徳島市選挙管理委員会(以下選挙管理委員会のことを単に選管委員会と略称する)に対し右選挙並当選の効力に関する異議の申立を為し同委員会は同年八月八日右異議申立は何れも理由なきものとして棄却の決定をしたので、右山内安高等は同年八月二十九日被告に対して前記異議棄却決定を不服として訴願を提起したところ、被告は同年十一月二十三日付被告委員長藤岡直兵衛単独で「昭和三十年八月八日付徳島市選挙管理委員会が異議申立人山内安高に対して為した決定はこれを取消す、昭和三十和四月三十日執行の徳島市議会議員選挙は第二開票区に限り無効とする」との裁決をなし、同年十一月二十五日被告委員会告示第八十四号及第八十五号を以てこれを告示した。

(三)(イ)  地方自治法第一八一条以下及公職選挙法第二〇二条以下の各規定によれば、訴願の裁決は専ら選管委員会という合議機関の権限に属しているものであつて、同委員会を代表する委員長の権限に属しておらない。又訴願の裁決は理由を附した文書をもつてすることが要求せられているのである。

故に訴願の裁決が有効であるがためには、適法に構成且つ開会された合議機関としての委員会の適法な決議によつて当該委員会がした裁決であることを当該裁決書自体によつて明認できる場合でなければならない。即ち裁決書自体に被告委員会の開会日、三人以上の出席委員があつたこと、多数決が成立したかどうかの諸点が明確にされ、且出席委員全員の署名押印がなければならないものと解する。

(ロ)  然るに昭和三十年十一月二十三日に被告委員会が県消防会館で開催せられた事実は、被告の議事録によつて之を認め得るとしても本件各裁決書を同日の委員会が作成した事実は到底之を認めることができないのである。即ち同日の委員会議事録に徴して明かな通り本件各裁決書は合議機関としての委員会が作成したものではなく、又委員会がその作成を委員長又は委員会の書記に対し合議の結果による具体的理由を示して委嘱した形跡も認められないのである。唯認め得られることは委員会の書記が裁決書を起案して藤岡委員長の決裁を受けていることのみである。

(ハ)  従つて本件裁決書の原本には只単に委員長藤岡直兵衛の記名が存するのみで同人の署名も押印もない。又勿論合議機関の構成員たるべき委員の署名もなければ押印も全然ないのである。故に本件各裁決書は適法に構成且開会された被告委員会の合議機関による適法な合議によつて被告委員会が作成したものではないのであるから各裁決は孰れも無効というのほかない。(但し右(三)の主張事実は各裁決の取消原因として主張するものではない)

よつて原告等は先ず被告のした本件各裁決の無効なることの確認を求める。

次に予備的請求についての請求原因として次の通り陳述した。

(一)  被告が右裁決の理由(イ)において認定した事実及び理由は次の通りである、即ち

昭和三十年四月三十日投票当日徳島市佐古第一投票所に於て午前六時より午後七時までの間到着番号係由利武雄(市選管委員会職員)が投票用紙交付係小角尚一の椅子の上にあつた投票用紙一束(五十枚)を窃取し昼食をもつて来た長女(当七歳)に喰べ終つた空弁当箱の中に入れて父直衛に渡すよう言いつけて帰宅せしめた、父直衛は弁当箱の中に入れてあつた投票用紙一束を持つて候補者山内安高の弟山内安一方二階へ行き選挙事務長深谷政一と共に候補書山内安高立会のもとに氏名を投票用紙に記入後一旦山内安高が保管し当日の夕刻又は翌日早朝右由利武雄の父由利直衛に渡し由利直衛は開票当日第二開票所に赴きその開票事務に従事中の由利武雄に之を渡した、由利武雄はその日右開票所に於いて開票事務に従事中その受取つた右投票用紙約四十枚をひそかに投票済票中へ混入した、その結果開票事務従事中に票数が合わなくなつたので市選管委員会職員である疑義票係西岡敏夫はその辻棲を合わすため当該開票管理者及びその立会人にはからずみだりに投票済の票中より約四十枚抜き取ると共に市選管委員会職員浜利喜雄において之を焼却した、而して公職選挙法(昭和二十五年法律第百号以下「法」という)第六十六条第二項によれば開票管理者は開票立会人と共に当該選挙における各投票所の投票を開票区ごとに混入して投票を点検しなければならない旨規定されているにもかかわらず西岡敏夫が抜取つた約四十票の投票は開票管理者及び開票立会人の点検を受けなかつたものであり明らかに法第六十六条第二項に違反するものである、しかし仮に右規定に違反しないとしても選挙管理の任にある市選管委員会職員による不正投票用紙の混入抜取りの行為は法の基本理念たる選挙の自由と公正の原則が著しく阻害されたのであり明らかに法第二百五条にいう「選挙の規定に違反する場合」に該当するものといわなければならない。而して当該選挙における最下位当選人森三四郎の得票は一〇九一票であり次点者藤崎仲一の得票数は一〇七一票であるからその差は二〇票である、しかるに市選管委員会職員による不正混入並に抜取り票はそれぞれ約四十票であり最下位当選人と次点者との差を上回るので選挙の結果に異動を及ぼす可能性があるから法第二百五条にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に該当するものといわなければならない、而して市選管委員会は異議の申立に対して仮に選挙の規定違反であつても不正混入した票は当然無効票であるのみならず該投票は候補者山内安高への不正投票であるから訴願人以外の候補者の得票数には何等の影響を与えるものではなく又抜取つた票は当然無効票であるのみならず該投票は候補者にあらざる者の氏名を記載した票を抜取つたものであり候補者の得票数には何等の影響を与えるものでないから前記行為は法に照らしてもとより違法の行為であるが選挙の結果に影響を及ぼす虞なしとして棄却したのである、しかしながら不正混入した票は当然無効であるのみならず候補者山内安高の得票数であるから他の候補者の得票数には何等影響をあたえるものでないというが混入した票に何人の氏名が記載されているかは法第五十二条の「投票の秘密保持」の規定からみて問うべきではなく従つて候補者山内安高の得票数から差引くことは出来ないので他の候補者の得票数に影響を来す虞があり原決定は当を得たものではない。

又抜き取られた票は候補者に非ざる者の氏名を記載した票であり無効票であるというが法第六十七条により投票の効力は開票立会人の意見を聞いて開票管理者が定めることになつており、開票立会人の意見を聞いて開票管理者が有効、無効の決定をしない以前に抜取つたものであるから未だ有効、無効が決定していないので無効として影響なしとした原決定は当を得たものでない、従つて訴願人山内安高のなした異議の申立に対してこれを棄却した市選管委員会の決定は右の理由により当を得ない、よつて以上の理由により第二開票区の選挙は無効である。

よつて進んで法第二百五条第三項により当選に異動を生ずる虞のないものの有無につき審査するに第二開票区以外の区域における各候補者の得票数の多いものから順次並べて当該選挙において選挙すべき議員に相当する順位にある者までを当選人とし最下位の当選人の次の順位にある者を次点者と仮称すればそれ等の者の得票数は別紙のとおりである。(別紙は省略)

よつて最高位当選人島田武雄について当選の有無につき判定するに二位当選人巽英雄から次点者秋山一生に至る迄の間の各得票差の合計は二二、五五七、四九票である、従つて第二開票区における再選挙の結果二二、五五七、四九票が二位当選人巽英雄から次点者秋山一生に至る各人に島田武雄との得票差だけ投票されたとすれば島田武雄との同数となり島田武雄はくじで落選する可能性が生ずるわけである、しかるに第二開票区における法第二百五条第四項の選挙人はこの二二、五五七、四九票を九〇〇〇余も上回る三一、六九四人であるので最高位当選人島田武雄は当選に異動を生ずることになる、このように最高位当選人が当選に異動を生ずることになるのであるから二位当選人巽英雄以下全員当選に異動を生ずることは自明の理である。しかし乍ら右裁決は事実の認定並びに法律の解釈を誤つた違法のものであるから当然取消さるべきものと信じ各裁決の取消並に選挙の有効確定を求めて本訴提起に及んだ次第である。

(二)  原告主張の事実を要約すれば次の通りである。

(イ)  昭和三十年四月三十日の本件選挙当日の午前六時五十分頃佐古投票所において、投票管理者の所謂手足となり到着番号係の一員として投票事務に従事中の由利武雄が投票用紙交付係小角尚一等において投票管理者西岡敏夫と投票事務の打合せ中、その隙に乗じ右小角が同人の椅子の上に置いていた投票用紙五十枚束一束を窃取したこと。

(ロ)  右窃取した五十枚の投票用紙は同日午後二時頃由利武雄の父由利直衛の手によつて山内安高候補者の弟山内安一方二階に持参せられ、同所において同候補者立会のもとに同候補者の選挙事務長深谷政一と由利直衛の手によつて、右投票用紙五十枚にそれぞれ同候補者の氏名又は氏を記入して、これを一枚宛折り畳んだ上、該偽造投票五十枚全部を新聞紙に包んで同候補者に保管を託して、由利直衛は自宅に帰つたこと。

(ハ)  翌五月一日の開票日当日の午前九時頃由利直衛は山内安一方に赴き山内候補者より前記偽造投票五十枚入の新聞紙包を受取つて、これをズボンのポケツトに入れて直ちに第二開票所へ持参し秘かにその子由利武雄に手交したので、由利武雄は同日開票事務に従事中これを秘かに正規の投票中に混入したこと。

(ニ)  由利武雄が右の如く混入した偽造票は四十七枚であつたこと残り三枚は父直衛が帰宅後ポケツト中に新聞紙と共に残存しているのを発見したので、同夜自宅で同人が新聞紙と一緒に之を焼棄したものであること。

(ホ)  右四十七枚の偽造票混入の結果、投票者総数よりも投票総数が多くなつたが、その情を全然知らない同開票所の総務係浜利喜雄は開票手続の終了直前頃に至り既に有効票と無効票とに区分され整理もされておる有効票の総数と無効票の総数とにつき、その集計係に対して再三に渉り確めたが、依然として投票者総数よりも投票総数が三十六枚多かつたため、之れが辻つまを合わすべく苦慮し疑義票係の一員西岡敏夫に対し三十六枚多い旨を告げて善処方を依頼した、そこで西岡敏夫は辻つまを合わすのに苦慮した挙句、机上に積み重ねてある無効票中の候補者に非ざる者の氏名を記載してある投票の中から四十枚を数えて抜取つたこと。その後これを隣席に居た疑義票係の小倉孝が秘かにズボンのポケツトに入れて持ち、開票手続終了後浜利喜雄に手交し浜利喜雄において之を焼棄したものであること。

(三)  次に選挙争訟における争の目的は特定の投票区、開票区又は選挙区における集合的行為としての選挙の全体の効力の有無であり、当選争訟における争の目的は特定の選挙における当選人の決定の当否であつて、前者は選挙が全体として法律上の効力を保持し得るかどうか、即ち選挙の管理執行の手続が適法にして且選挙が自由公正に行われたものであるかどうかが争われるもの、後者は選挙が全体として有効に行われたものであることを前提として選挙会における当選人の決定がそれ自体適法な手続によつて行われたかどうか等の点が争われているのである。

従つて公職選挙法第二〇五条に所謂選挙の規定違反とは所謂選挙の管理執行に関する規定のみを拾い上げた上、そのものの中から更に選挙全体の自由公正を害する規定の違反のみが選挙の無効原因となるものと謂うべきである。

次に帰属不明の無効投票の存在を理由とする争訟について考察するに、その帰属不明の無効投票の発生原因が選挙権のない者のした投票であるとか他人の名を詐つてした投票であれば、これらの投票は選挙の管理執行に関する規定違反とはいえないから選挙の無効原因となり得ない。又管理執行者が手続違反の不在投票を受理した場合は、選挙に関する規定違反ではあるけれども結局は個々の投票の効力に関するものであるから選挙無効の原因とはいえない。

其の他帰属不明の無効投票があるために選挙の結果に異動を及ぼす虞ありとする争訟は当選争訟であつて、選挙争訟ではない。即ち選挙無効の場合はその全部であれ、一部であれ、手続を初めからやり直さねばならない。然るに投票無効の場合は選挙が有効に行われたことを前提としてのみ考えられるものであるから全投票の一部に無効投票があつても、その他の投票の有効であることは無論のことであり、従つて若干の無効投票が有効投票中に混入せられているとしても、その故を以てその有効投票までおも無効とすべきでない。只その無効投票が何人の得票として計算されているかということを知ることができないものであるに過ぎない、且つ又実際に異動を及ぼす虞のない当選人の既得権をも侵害する結果となるのみでなく、選挙経済の立場からも不必要な多大の経費と時間を消費することにもなつて実際上の見地からも甚しい不都合を生じるのである。故にこれらの諸点をも考慮に入れて帰属不明の無効投票数が判明している場合は選挙の管理執行に関する規定違反があつてもそれは集合的行為としての選挙全体の効力に影響を及ぼす規定違反でなく、元来当選争訟における無効原因たるべきものであるという見地から改正選挙法第二〇九条の二の規定が新に加えられたのである。

尚又管理執行者が投票を抜取り、挿入又は偽造変造或は所謂たらい廻し等の不正行為をした事実が存在する場合においてもそれらの投票数が算定できる場合は結局それらの数に相当する無効投票があることになり、結局得票数の算定に関するのみであつて決して選挙全体の効力に影響を及ぼすものでないのであるから当選争訟の目的となるのみで、決して選挙そのものの無効を来すものではない。

そこで以上の理論に照して本件事実関係を仔細に検討すれば

一、被告がその裁決の理由(イ)において認定した事実即ち投票用紙の窃取、不正投票及抜取りの事実は何れも当選争訟における無効原因たるべきものであつて毫も選挙争訟の無効原因とせらるべきものではない。

二、然るに被告は本件選挙を無効とすべく予断を抱いて之れが審理に臨んだ結果未だ充分なる審理を尽さず、従つて事実の認定を誤り、その誤認した事実に基き本件選挙を不当にも無効なりと判断した。即ち窃取、混入、抜取りをした投票用紙の数は前記の通り明確となつているものである。

三、本件投票日の当日第一投票所における管理執行者は無論投票管理者並に投票立会人であるがその手足となり到着番号係の一員として投票事務に従事中の由利武雄が投票用紙交付係小角尚一等の隙に乗じて投票用紙五十枚束一束を窃取した所為は右管理執行者の全く夢想だにしていなかつた事柄であり、又勿論管理執行者の故意過失に起因するものでもなく、殊に唯単なる到着番号係の一員に過ぎなかつた由利武雄の窃取行為それ自体は所謂選挙事務従事者としての職務執行ではないのであるから、之をもつて選挙の規定違反であるとすることは勿論到底首肯できない。

又仮りに選挙の規定に違反しているとしても同人の窃取した投票用紙の数は明確に五十枚であり(この点は被告も自認しておる)、従つて仮りに該五十枚全部が不正に正規の投票所において投票されていたとしてもそれは本来正規の投票用紙による投票でないから、無効の投票であり、従つて只単に帰属不明の無効投票が投票総数の中に混入したのに過ぎないのであるから、結局得票数の算定の問題に帰着し、これあるの故をもつて他の全部の有効投票をも無効に帰せしめもつて善意多数の選挙人の意思を無視し且つ又当選人の既得権をも剥奪して選挙を無効とすべきものではない。

四、本件開票日の当日第二開票所(加茂小学校)における管理執行者は勿論開票管理者及開票立会人であり、前記由利武雄は管理執行者の手足として開票事務に従事していたに過ぎない。而して同人が開票事務に従事中秘かに偽造投票四十七枚を混入した所為は、之れまた右開票所における管理執行者である開票管理者及開票立会人の全く夢想だにしていなかつた事柄であり、又無論管理執行者の故意過失に基くものでもなく、殊に由利武雄の該所為それ自体は所謂選挙事務従事者としての職務執行ではないのであるから、之をもつて選挙の規定違反なりとすべきではない。

又仮りに選挙の規定に違反しているとしても同人の混入した偽造投票の数は四十七枚であることが明確になつているのである。且又該四十七枚は全部落選候補者山内安高の得票数の中に算入せられていることが明確になつているのである。従つて右混入の投票は右山内安高候補以外の他の候補者の得票数には全然影響を及ぼさないことが明白である。

右の次第で偽造投票の数及びその帰属者が判明しているのであるから結局得票数の算定に関する問題であり、従つて当然当選争訟の無効原因となるのみで、決して選挙争訟の無効原因とすべきものではない。

(イ)  然るに被告の裁決理由中右の混入された偽造投票に関して被告は、「しかしながら不正混入した票は当然無効であるのみならず候補者山内安高の得票数であるから他の候補者の得票数には何等影響をあたえるものではないというが混入した票に何人の氏名が記載されているかは法第五二条の投票の秘密保持の規定からみて問うべきでなく、従つて候補者山内安高の得票数から差引くことはできないので他の候補者の得票数に影響を及ぼす虞があり原決定は当を得たものでない。」と説示されている。併し乍ら被告の右所論は本件事実の真相を明確に把握せずして為された暴論というのほかないのである。

(ロ)  法第五二条の趣旨は正当なる選挙人のした投票に対する秘密を保持しもつて選挙の公正に行われることを保障することにあるのであつて、本件の如き場合にはその適用はないものと解せられる。

(ハ)  加之本件の四十七票にはそれぞれ候補者山内安高の氏名が記載されている事実は既に記入当時における前後の事情に徴して常識的にも察知し得るのみならず、又既に当該関係人自身が積極的に秘密を打ち明けて山内候補者の氏名を記入したものであることを明確に言明している。即ち当該関係人に対する犯罪の捜査過程において検察官の調査の結果明かにされているところである。

然るに被告はかくの如く既に客観的に厳然として存する事実に対してすら敢えて眼を蔽うて「投票の秘密保持の規定から見て問うべきでない」とし、従つて又該四十七票には何人の氏名が記載せられているかは全然不明であると主張するのであるから、全くもつて曲解乃至暴論の甚しいものと謂うべきである。

(ニ)  又選挙争訟において当選の無効原因たる事実を主張したり審理することは選挙法上許されておらないのである、然るに若しも被告主張の如く「投票の秘密保持の規定から見て問うべきでない」とすれば、結局該四十七票はその帰属者不明の票即ち帰属不明の無効票であるとの結論に帰着するのである。してみれば被告は結局本件を選挙争訟であると主張しながら当選争訟における無効原因を主張することになり、従つてその主張自体において許容すべからざるを矛盾撞着ありと謂わねばならない。

五、次に本件開票事務の終了直前頃になつて無効投票中の候補者に非ざる者の氏名を記載してある投票の中から四十枚を数えて抜取つた疑義票係西岡敏夫の所為は本来総投票数の中に入つて来るべき正当な選挙人の投票が管理執行者において違法に拒否せられたために総投票数の仲間入りすることができず従つて何人かの得票の中に算入せらるべき投票が遂に算入されなかつた場合と同様の結果を生じているのである。即ち投票を拒否せられた正当な選挙人が若し拒否という障害がなかつたならば、有効の投票をなしたであろうと推測せらるべきもので、結局は有効投票として計算せらるべきものが、日の目を見ずに闇にほおむられ何人かの得票として算入せらるべくして算入せられなかつたものである。それは結局実質的には普通の有利投票を誤つて無効投票と認定した場合と同様に帰し、只異る点は、それが帰属不明であるという点に過ぎない。

而して右西岡敏夫の抜取つた投票の数は既に判明し且つ総投票数の中へ算入されておらないのであるから、最早該投票四十枚は法第六七条の規定による有効無効の判定を要せずして当然帰属不明の無効投票として処理せらるべきものである。結局之は既述の如く得票数の算定に関する事柄であり、従つて当然当選争訟の無効原因となり得ても、決して選挙争訟の無効原因として主張したり審理の対象となるものではないのである。

然るに被告は裁決理由中に「法第六十七条により投票の効力は開票立会人の意見を聴いて開票管理者が定めることになつており、開票立会人の意見を聴いて開票管理者が有効無効の決定をしない以前に抜取つたのであるから、未だ有効無効が決定してないので無効として影響なしとした原決定は当を得たものでない」と論断されたのである。

併し乍ら同法によつて為される有効か無効かの決定は前述の如く本件抜取り票については既に全然その必要のないものであるのみならず、同条による決定は只一応の暫定的なものであつて最終的確定不動の効力を有するものでないことは、後日争訟の提起された場合、当該争訟事件において右の開票管理者の決定が従来屡々左右されて来た実例に徴して明かである。故に同条によつて為された有効、無効の決定それ自体未だ最終的確定不動のものとして当該投票が有効と定まり、或は無効と定まるものではないのであるから、この点からしても被告の主張は失当というべきである。加之かかる主張は元来当選争訟の無効原因として主張せらるべきものであつて、本件選挙争訟において主張することは許されず又審理の対象となるものではないのである。

(四)  以上の次第であるから被告主張の事実即ち裁決理由(イ)項の認定事実はすべて当選争訟の無効原因たるべきものであり、選挙争訟のそれでは決してないと確信する。

仮りに百歩を譲つて選挙争訟の無効原因として主張し審理し得るものとしても、本件の各事実はいずれも選挙全体の効力に影響を及ぼすべき所の管理執行の規定に違反しているものではないのみならず、毫も当選の結果に異動を及ぼす虞がないのであるから本件選挙を無効とすべき理由は更にない。

(1)  そもそも選挙無効の結果は勢い再選挙を行うことになり、再選挙にでもなれば、多大の労力と巨万の公費等を費消し、惹いては徒らに市民の負担を増大させるのみならず、有権者は直接間接選挙に没頭し、その生業の上にも多大の支障と冗費と精神的衝動を与えられ、その影響寔に甚大である。又候補者としては既に当選しておる者は勿論多大の損害を蒙ることは寔に明白であり、更に又社会的にも近時低下せる選挙運動のため市民の思想及生活上にも尠なからざる悪影響を及ぼすものである。

(2)  故に当該選挙を無効とするには、その選挙において全体的に明かに選挙本来の精神である自由公正が著しく害せられたる事実が存在し、それが明かに選挙全体の効力に影響を及ぼす程度に重大な管理執行の規定に違反してなされ而も選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合のみに極限せられているのである。

(3)  然るに本件事案はいずれも選挙手続中でも最も重要な選挙人全般の投票がその自由な判断によつて且つ又この間管理執行に関する規定の違反もなく無事終了したその翌日の開票手続中の出来事であり、而して元来開票手続は只終了した投票の結果を確認する程度のものである。故に選挙の所謂自由公正は実質上何等妨げられてはおらないという事実を看過してはならないのである。

(4)  仮りに百歩を譲つて本件選挙が所謂管理執行の規定に違反しているとしても毫も当選の結果に異動を生じないのである。故に本件選挙は有効であると確く信ずる。即ち

(イ)  由利武雄の混入した偽造票の数が四十七枚であることは既に述べた通りである。而も既述の通り該偽造票は全部落選候補者山内安高の有効得票数の中に算入せられていることが明白なのである。従つて当選の結果に異動を生ずる余地更になし。

(ロ)  又西岡敏夫の抜取つた投票の数が四十枚であることは既に述べた通りである。而も該投票は開票管理者の判定をまつまでもなく何人においても異議なく、之を白票と全く同一視すべき絶対的無効票と認められていたもので、殊に西岡敏夫の人物、経歴等から見ても同人においては決して選挙の自由公正を害する考えで抜取つたものではなく、むしろ反つて開票手続を無事完了させるために苦慮した結果各候補者の得票数に全然影響のない白票同様の無効票の中より抜取つて辻つまを合わそうとして、そこで机上に相当多量に積み重ねてあつた候補者に非ざる者の氏名を記載してある投票の中より抜取つたものである。

従つて抜取られた投票は本来各候補者の得票数に算入することのでき得ない絶対無効のものであつたのである。加之本件候補者に非ざる者の氏名を記入した投票中から本件選挙における次点者と最下位当選者との得票差二十票という多数の有効票が出て来るということは如何なる観点からもあり得ない。故に勿論当選の結果に全然異動を生じないことは明白である。

(ハ)  なほ窃取された五十枚の投票用紙の内四十七枚全部が山内候補者の得票数の中に算入せられ残り三枚は全然本件選挙の投票総数の中には算入されておらない。即ち焼棄されていることも明かであるから、之れまた当選の結果に異動を生じないこと無論である。

以上縷述の次第であるから被告が本件選挙を無効となしたる裁決はいずれの観点よりするも明かに失当であり、従つて原告等は到底之に承服することができない。

被告指定代理人は原告等の第一位の請求及予備的請求に対し何れも請求棄却の判決を求め、第一位の請求に対する答弁として次の通り陳述した。

(一)  原告等主張の(一)(二)の事実中原告等主張の裁決を被告委員長藤岡直兵衛単独でしたとの点を除きその余の部分は認める。

(二)  同上(三)の(イ)の事実中訴願の裁決は専ら選管委員会という合議機関の権限に属しているものであり、又訴願の裁決は理由を附した文書をもつてすることが要求せられているとの点は認めるもその余の部分は否認する。即ち訴願の裁決書自体に原告主張のような表示をする必要はない。

(三)  同上(三)の(ロ)の主張事実中、被告委員会開催の場所の点は認めるも其の余の部分は否認する。

(四)  同上(三)の(ハ)の事実中、本件裁決書の原本には只単に委員長藤岡直兵衛の記名が存するのみで、同人の署名も押印もない。又勿論合議機関の構成員たるべき委員の署名もなければ押印も全然ないのであるとの点は認めるも其の余の部分は否認する仍て原告等の請求には応じ難い。

次に原告等の予備的請求に対する答弁として左の通り述べた。

(一)  被告のなした裁決は事実の認定並に法律の解釈を誤つたものではなく、適法な行為であるから取消すべき理由は毫もない。

原告等主張の(一)(二)の事実中被告委員会が本裁決において認定せる事実(原告等主張の(一)の中において原告等の摘示せる本裁決の認定事実)に反するその主張事実は全部否認する。

原告等は被告が本裁決において認定した事実中昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙に当りその選挙係員由利武雄がその選挙事務に従事中徳島市佐古町に於ける第一投票所においてその投票当日その投票用紙五十枚束一束を窃取し、密かに之に候補者中の何人かの氏名を記入せしめ、翌五月一日の開票当日その第二開票所においてその開票事務に従事中密かに右候補者の何人かを記入した偽造票中約四十枚を正規の投票中に混入した事実(原告等はその混入した不正票は確実に四十七枚であつたと主張する)及其の結果開票事務従事中に票数が合わなくなつたので、其の事務に従事していた疑義票係西岡敏夫がその辻つまを合わすため投票済の票の中より約四十枚(原告は確実に四十枚であると主張する)を抜取り市選管委員会職員浜利喜雄において之を焼棄した事実は之を争わず、又其の抜取り及其の焼棄につき、右西岡敏夫及浜利喜雄において毫も開票管理者及開票立会人にはからず、その不知の間に之をした事は原告の明かに之を争わないところである。

原告等は右不正行為に関与した由利武雄、西岡敏夫及小倉孝は何れも市選管委員会の職員ではなく、臨時選挙係として雇われたその選挙事務の手伝人に過ぎないから右者の行為は選挙執行機関の行為でない旨主張するけれども、右の者等は何れも選挙係として市選管委員会より選任せられたその職員であつて(この事実は市選管委員会の承認するところである)其の職員には専任又は兼任の区別こそあれ、等しく市選管委員会の職員として選挙の管理執行事務に従事していたのであつて、その事は何人も疑わないところである。

原告等は由利武雄が第二開票所で混入した票は候補者山内安高の氏名を記載してあつた四十七枚であり、西岡敏夫が抜取つた票は四十枚で何れも候補者に非ざる者の氏名を記載してある無効票即ち何人にも容易に無効票と認められる白票同様の絶対無効票であつたと主張するけれども之を否認する。

(二)  原告等がその請求原因事実(三)において主張する一般論としての選挙争訟論並当選争訟論に関する見解については、被告は概ね原則的に争わないが、投票の抜取り混入、偽造、変造或はたらい廻し等による選挙の規定違反の事実があつたとしても、かかる投票数が算定できる場合(即ち判明特定している場合)は選挙の無効原因としての規定違反ではなく、個々の投票の効力問題であり、当選争訟の無効原因となつても、選挙争訟の無効原因とはならないものであるとの主張は之を争う。即ち選挙の規定違反に係る投票数が判明(特定)していると否とを問わず、選挙管理執行の機関にあるものの投票用紙の不正増減等の行為は明かに選挙の管理執行に関する規定に違反し、選挙全体の自由公正を害することは明白であり、選挙そのものの効力に影響を及ぼすものであつて、個々の投票の効力判定以前の選挙の効力の問題を惹起するのであり、而してこれが選挙無効の原因たることは最近の判例の傾向であることは何人も争わない自明の理である。

(三)  次に原告等は本件事実について陳述しているがその内

(1)  投票用紙の窃取、不正投票及び抜取りの事実は、何れも当選争訟における無効原因たるべきものであつて、毫も選挙争訟の無効原因とせらるべきものではないとの主張は、既述の理由により之を争う。

(2)  原告等は被告が本件選挙を無効とすべく予断を抱いて之れが審理に臨んだ結果、充分なる審理を尽さず、本件選挙を不当にも無効なりと判断したと主張するが、被告の審理は適法且厳正に行われたものであり、原告等の主張は暴言も甚しいものといわなければならない。また混入した偽造投票の数並に抜取つた投票数については、既にのべた通り明確に之を特定することは出来ない。

(3)  原告等は由利武雄の窃取行為は選挙の規定違反ではないと主張するが、投票用紙の不正混入の前提をなす由利武雄の投票用紙窃取行為を惹起せしめたことについては選挙管理事務(投票用紙の管理)に重大なる過失があると云うべきであり、公職選挙法の基本理念なる選挙の公正の原則を著しく阻害しており、選挙の規定に違反するものといわねばならない。又由利武雄は既にのべた通り選管委員会の職員として投票事務に従事している者であり、由利武雄の窃取行為は明かに選挙管理事務をみだすところの選挙の管理執行規定に違反するものと謂わなければならない。

(4)  原告等は由利武雄は選挙事務従事者としての職務を執行していたものではないと主張するが、既にのべた所により該主張は当を得ていない。

又由利武雄の混入した偽造投票はあくまでも無効投票であるが、その数は約四十枚であり明確ではなく、又それが全部山内安高の得票数の中に算入せられているかどうか明確ではない。更に、原告等は不正混入された四十七枚には、候補者山内安高の氏名が記入されている事実は、既に記入当時における前後の事情に徴して常議的にも察知し得るのみならず、又既に当該関係人自身が積極的に秘密を打ち明けているというが、投票の秘密を侵してはならないという憲法第一五条第四項の基本的人権の保障規定からみるも、無記名投票制度を採用した趣旨に徴するも犯罪の捜査又は処罰の権限を有する者が、その職権を行使する場合は格別、その他の場合においては、投票人の選挙権の有無にかかわらず、選挙又は当選の効力を定めるに当つて、何びとに投票したかを調査すべきではない旨、昭和二十二年五月十六日東京高等裁判所判決において判示されているのであつて、仮りに原告等主張の如く候補者山内安高の氏名が記入されていたとしても、記入された氏名を調査することも事実上不可能であり、又当該投票がすべて山内安高候補の得票とされているかどうかも明かでなく、山内安高候補以外の候補者の得票数に影響を与えないものとは絶対に断言できない。

従つて原告等の主張は不当である。

原告等は被告の主張自体許容すべからざる矛盾撞着であると主張しているが、被告の裁決書における「問うべきでなく云々」と述べているのは、選挙の規定に違反していても選挙の結果に異動を及ぼす虞なしとする徳島市選管委員会の決定に対し、選挙の結果に異動を及ぼす虞ありとの理由として述べているまでであることは裁決書全体から明かである。原告等主張の如く選挙無効原因と当選無効原因とを混同するがごとき矛盾撞着は何ら存しない。むしろ原告等こそ本件選挙を有効とするとの前提のもとに、不正混入による無効投票は、当選無効の原因となるにすぎないとの独断をもつて一切をおし切ろうとしている如くである。

(5)  原告等は、更に西岡敏夫の所為は、法第六七条の規定により有効無効の判定を経ずして当然所属不明の無効投票として処理せらるべきものであると主張するが、法第六七条の規定は形式的、手続的規定ではなく、実質的実体的規定であり、開票管理者が開票立会人の意見を聴いて有効無効を決定する行為こそ当選の有無を決定する最大要素であり、そのためにこそ開票管理者、開票立会人の制度があるのであるから、原告等の主張は当を得ない。

なお抜取つた投票の数の確定していないことは既述のとおりである。

(6)  其の他被告の主張に反する原告等の主張は凡て争う。

最後に原告等は全体的に見て本件は選挙争訟事由に該当するものではなく、当選争訟事由に該当するものであり、而も選挙の規定に違反しているとしても当選の結果に異動を及ぼす虞がないから、本件選挙を無効とすべき理由は更にないと主張するのであるが、そもそもすべて選挙は公正に行われ選挙人の意思が誤なく選挙の結果に反映して当選人が正当に決定されなければならないことはいうまでもないのである。されば公の選挙の管理執行に関する規定は、そのすべてが選挙の公正に行われることを保障する目的で定められたものということができるのである。それゆえ選挙がこれらの法規の明文に反して行われた場合は、選挙の規定に違反したものであることは当然であり、仮りに直接の明文に違反しなくても選挙が公正を欠いだ手続によつて行われた場合もまたこれら法規の精神に背いたもので亦同様である。

飜つて本件市議会議員選挙にあたつては選挙管理の直接その衝に当る職員による投票用紙の不正混入、抜取り等の一連の選挙違反の行為が行われ、而もこれにかかる投票数が最下位当選者と次点者との得票差を上回る以上、選挙の規定に違反して行われた第二開票区の選挙に限り、選挙を無効とすべきことは蓋し当然といわなければならない。

仍て原告等の請求には応じ難い。

(立証省略)

理由

徳島県徳島市は昭和三十年四月三十日徳島市全域に亘る同市議会議員の選挙を執行した。昭和三十年(ナ)第五号事件同第六号、同第七号事件の原告等は何れも同市住民として選挙権被選挙権を有するもので且同市議会議員の候補者であるところ、(ナ)第五号事件の原告山内安高は同年五月十四日に徳島市選管委員会に対し右選挙の全部無効並に最下位当選人森三四郎の当選無効を求めて異議申立をなしたところ、之に対し同市選管委員会は同年八月八日異議申立棄却決定を為し、該決定書は同年同月十一日原告山内安高に交付せられた。そこで原告山内安高及(ナ)第五号事件の原告岡田亀太郎等は同年同月二十九日被告に対し右棄却決定を不服として前示選挙の全部無効を求めて訴願に及んだのであるが、被告は同年十一月二十三日「昭和三十年八月八日付徳島市選挙管理委員会が異議申立人山内安高に対しなした決定はこれを取消す昭和三十年四月三十日執行の徳島市議会議員選挙は第二開票区に限り無効とする」旨の裁決を為し、同月二十五日被告委員会告示第八十四号及第八十五号を以てこれを告示し同日右裁決書を前記原告等に交付したことは(ナ)第五号、同第六号、同第七号事件における夫々の当事者間に争がない。而して被告に対し夫々(ナ)第五号事件原告等は同年十二月十七日に右選挙全部の無効確認の訴を提起し、(ナ)第六号、同第七号事件原告等は同年十二月二十三日に、第一位に右選挙の効力に関し被告が同年十一月二十三日付を以てした各裁決の無効確認の訴を予備的に右裁決の取消並右選挙を有効とする旨の訴を提起したことは一件記録に徴して明白である。

してみれば右原告等の訴は夫々公職選挙法第二〇二条第二〇三条の要件を具備した適法なものと謂うべきである。

而して本件各裁決の主文第二項において本件選挙は第二開票区に限り無効とする旨宣示したのは本件争訟の経緯並成立に争のない甲B第二号証の四、五によれば主文第一項と相まつて結局本件選挙の内第二開票区の部分の無効なることと同時にその余の部分即ち第一、第三開票区の部分の有効なることを宣示した趣旨であると解すべきことは寔に明瞭である。

本件各訴旨に依れば(ナ)第五号事件の原告等は請求趣旨においては本件各裁決の取消を求めてはいないけれども本件各裁決において本件選挙の内第二開票区に限り之を無効としてその余の部分(第一、第三開票区に関するもの)の有効なることを宣示した部分の違法なることを主張して結局本件選挙全部の無効確認を求めているものであり、(ナ)第六号同第七号事件の原告等は第一位に本件各裁決の無効確認を求め予備的請求においては本件各裁決において本件選挙の内第二開票区につき之を無効と宣示した部分の取消並本件選挙全部の有効確認を求めていると解せられる。

右の如く本件は何れも夫々一個の選挙の効力に関する裁決又は選挙の効力に関して数名の原告等から提起せられた訴訟であるところ民事訴訟法第六二条に所謂権利関係が合一にのみ確定すべき場合とは訴を適法にするために共同訴訟を必要とする場合だけではなく、訴訟の目的である権利関係が共同訴訟人の全員に対し別個に確定することを許さない場合をも含むと解せられているので、本件三事件は夫々併合審理せられる限りにおいては、右各裁決の無効確認の点及右各裁決の有効なることを前提として之れが取消又は選挙の効力確定を求める部分は夫々被告委員会に対する関係において各事件の原告の間においては訴訟の目的が法律上合一にのみ確定することを要する場合に該当するものと謂うべく、民事訴訟法第六二条が適用せらるべきものと解するを相当とする。

第一、(ナ)第六号、同第七号事件の内第一位の請求につき本件各裁決が無効であるか否を判断する。

地方自治法第一八一条以下及公職選挙法第二〇二条以下の各規定によれば訴願の裁決は専ら県選管委員会の権限に属するもので、同委員会は三人以上の委員を以て構成せられた合議機関であることを要する(地方自治法第一八九条)ほか、同委員会の議事は適法に招集され、且出席委員の過半数を以て決し、可否同数の時は委員長の決するところによるべきものとされている(同法第一八八条、第一八九条、第一九〇条)

故に訴願の裁決が有効であるためには適法に構成且開会された合議機関としての委員会の適法な決議によつて当該委員会がした裁決であることを要することは異論を見ないところであるが、更に進んで右の各事項が裁決書自体によつて明認できる場合換言すれば裁決書自体に当該委員会の開会日、三人以上の委員が出席したこと、多数決が成立したか否の諸点が明かにされ、且出席委員全員の署名捺印がなければならないかどうかにつき検討する。

公職選挙法第二一五条に依れば訴願に対する裁決は文書をもつてし、理由を附けて申立人に交付すると共にその要旨を告示しなければならない旨を規定し地方自治法乃至は公職選挙法第二一六条により適用せらるべき訴願法には裁決書の記載事項並方式等につき前記のほか何等明定するところはない。

公職選挙法第二一九条によれば本章の規定による訴訟については本章に特別の定めがあるものを除いては行政事件訴訟特例法第八条、第九条、第十条第七項及第一二条の規定を適用するほか民事訴訟に関する法律の定めるところによると規定せられているところ民事訴訟法第一九一条によれば判決書の原本には判決をなしたる裁判官之に署名捺印することを要する旨規定せられている。それで裁決書の記載内容及方式等につき同法の規定が準用せられるかどうかというに、裁判における判決と訴願における裁決とは根本的にその性質を異にするものである。裁決は委員会における決議によつて決定せられ、会議における出席の各委員の意見は会議録によつて明かであり、会議録は必要な場合は何時でも公開されるのである。之に反し合議体における判決は裁判所法によつて構成員の評議によつて決定される。而して評議は同法第七五条により秘密とされ公行しないことになつており、構成員は秘密を守る義務を負わされているのである。即ち裁決を決定する合議機関たる委員会の決議の内容等は会議録をみれば明瞭であるが、判決を決定する評議は公行されないから判決書自体においてその内容を知る必要がある。

以上のほか諸多の要請から判決書には民事訴訟法第一九一条により厳格な手続が要求されているのであるが、裁決書は前記の通り、文書を以てし、理由を附すべき旨を規定するにとどまる。従つて法律の趣旨は裁決書の内容及方式等につき司法手続における判決書のそれと同様のものを要請しているとは到底解し難い。

従つてこの点に関する原告の主張は採用し難い。

然れ共裁決書は訴願裁決庁たる行政庁の作成する公文書であるから、少くともその作成者たる裁決庁の記名捺印のあることを要するものと謂うべきである。

本件について之を観るに本件各裁決書の原本には只単に被告委員会委員長藤岡直兵衛の記名が存するのみで同人の署名も押印もないこと及合議機関の構成員たるべき委員の署名押印もないこととは当事者間に争がない。従つて該裁決書は前叙に照し瑕疵あるものと謂うべきである。

然れ共右の瑕疵あるが故に直ちにその裁決は無効であると謂うべきか否を検討するに、成立に争のない甲B第一号証、同第二号証の一乃至五、同第三号証と証人渡辺邦夫、同千葉公義の各証言被告代表者藤岡直兵衛の供述を綜合すれば昭和三十年十一月二十三日県消防会館において被告委員会が委員長藤岡直兵衛外二名の委員出席の下に開催せられ、原告山内安高から提起せられた本件選挙の効力及当選の効力に関する訴願(告示第八十四号関係)及原告岡田亀太郎外十三名から提起せられた本件選挙の効力に関する訴願(告示第八十五号関係)につき夫々最終の審議を遂げた結果出席委員全員一致の評議を以て夫々前記内容の裁決をなし、其の旨議事録に明記し且その議事録には出席委員全員の署名捺印がなされていること、而して被告委員会は右裁決に基いて前記の如く本件各裁決書を作成したこと、右各裁決書はその末尾に被告委員会と表示して委員長藤岡直兵衛のみの記名をなし且本文中には理由を附したものなること、而して同月二十五日前示告示第八十四号同第八十五号を以てこれを告示し且前記訴願人等に対して夫々同日右裁決書を交付したことが認められる。原告等の立証を以ては右認定を覆すには足りない、してみると本件各裁決は夫々適法に構成且開会された被告委員会によつて適法になされ本件各裁決書は右委員会の裁決に基いて適法に作成されたものと謂うべきである。本件各裁決書が右委員会によつて適法になされた裁決に基いて作成せられたものなる以上、前示の如き瑕疵がありとするも、之れがために本件各裁決を無効とすることは出来ない。

従つて原告等のこの点に関する請求は理由がなく、之を棄却すべきものとする。

第二、昭和三十年(ナ)第六号、同第七号事件の内予備的請求について判断する。

原告等は本件各裁決の取消並本件選挙の有効確認を求めているけれども、被告のなした本件各裁決においては既に本件選挙の内第一、第三開票区に関する部分の有効なることを宣示している趣旨であると解すべきであり、又原告等が裁決の取消を求めているのも第二開票区に関する選挙の無効なることを宣示した部分についてであると解すべきこと前叙の通りであるのみならず、弁論の全趣旨によれば被告は現に第一、第三開票区に関する選挙の有効なることは之を争わないものと認められるから、本訴においては本件各裁決中第二開票区に関する選挙を無効とした部分の取消の点及選挙の有効確認の点について判断することとする。

一、被告が本件各裁決の理由として認定した事実及理由は原告等主張の請求原因事実摘示(一)に記載の通りであることは当事者間に争がない。

二、(イ) 昭和三十年四月三十日本件選挙の投票当日の午前六時より午後七時までの間佐古第一投票所において到着番号係として投票事務に従事中の由利武雄が市議会議員投票用紙交付係小角尚一等の椅子の上にあつた投票用紙五十枚一束を窃取したこと。

(ロ) 右窃取した五十枚の投票用紙は同日午後二時頃由利武雄の父由利直衛の手によつて原告山内安高候補の弟山内安一方二階に持参せられ、同所において同候補者の選挙事務長深谷政一と共に同候補者立会のもとに氏名を投票用紙に記入した後一旦原告山内安高が保管したこと。

(ハ) 翌五月一日の開票日当日の午前九時頃由利直衛は前記山内安一方に赴き原告山内安高より前記偽造投票五十枚を受取つて、これをズボンのポケツトに入れて直ちに第二開票所へ持参し、その開票事務に従事中の由利武雄に之を手渡し由利武雄はその日右開票所において開票事務に従事中右受取つていた偽造投票若干を秘かに正規の投票中に混入したこと。

(ニ) 右混入の結果開票事務従事中に投票総数が投票者総数より多くなつことが判つたので疑義票係西岡敏夫はその辻つまを合わすため当該開票管理者及その立会人にはからず、みだりに投票済の投票中より若干枚を抜取ると共に、疑義票係小倉孝の手を経て総務係浜利喜雄に交付し同人において之を焼却したこと。

以上の事実は何れも当事者間に争がない。

(ホ) 而して原告等は本件投票当日第一投票所における管理執行者は無論投票管理者並投票立会人であつて、由利武雄は単にその手足となり、到着番号係の一員として投票事務に従事していたものに過ぎない旨主張するので検討するに、投票所における管理執行者は投票管理者及投票立会人等であることは勿論である。然れ共本件選挙における投票、開票其の他選挙に関する事務は徳島市選管委員会において管理しているものであり、その選管委員会は書記其の他の職員(常勤及臨時の職)を置くことが出来(地方自治法第一九一条)、書記其の他の職員又は同法第一八〇条の三の規定に依る職員(普通地方団体の吏員其の他の職員にして選管委員会の事務を補助する職員と兼ねさせ、若くは之に充て、又は該委員会の事務に従事させられた者)は選管委員長の指揮を受け委員会の事務に従事する旨規定せられているところ証人谷光次、同由利武雄、同西岡敏夫の各証言に依れば由利武雄は本件選挙当時は徳島市の職員にして臨時に本件選挙につき市選管委員会の職員に選任せられ第一投票所(佐古小学校)の投票事務及第二開票所(加茂名小学校)の区分係として開票事務に従事したことが認められる、従つて由利武雄は本件選挙において市選管委員会から選任せられた職員(臨時)として選挙の管理執行事務に従事していたものと謂うべきである。

従つて此の点に関する原告等の主張は採用し難い。

(ヘ) 原告等は右窃取した五十枚の投票用紙には候補者たる原告山内安高の氏名を記入したものであり、而も其の内由利武雄の手によつて正規の投票中に混入せられた数は確実に四十七枚であり、右は正規の投票用紙による投票でないから無効である旨主張し、被告は右投票用紙が偽造であることは争わないが、記入された候補者の氏名は不明であり、且その混入した偽造票の数は約四十枚であつて確定することは出来ない旨抗争する。由利武雄が混入した投票は前記の如く同人が窃取した五十枚の投票用紙に正規の投票所外で作成された偽造票であることは当事者間に争がないところ成立に争のない甲B第八号証の一乃至五、同第九号証の一乃至三、証人由利武雄、同由利直衛、同大智梅夫、同谷光次の各証言を綜合すれば由利直衛は前記由利武雄が窃取した投票用紙を同日の午後二時頃原告山内安高候補者の弟山内安一方二階に持参し、同所において同候補者の選挙事務長深谷政一と二人で右由利直衛の持参した投票用紙全部(その数は後記認定の通り)に候補者山内安高の氏名を記入して之を一枚宛折畳み、新聞紙に包んで一旦同候補者に保管を託して、由利直衛は自宅に帰つたこと、而して右偽造票中若干が翌五月一日由利武雄の手によつて正規の投票中に混入せられたこと、而して右混入せられた偽造票は約四十二、三枚であることが認められ、原告等の立証を以ては右認定を覆すには足らず、右混入せられた偽造票の数が確実に四十七枚であることは確認し難い。従つて右混入された票が確実に四十七枚であるとする原告等の主張は採用し難い。又原告等は本件開票日の当日第二開票所(加茂名小学校)における管理執行者は勿論開票管理者及開票立会人であり、前記由利武雄は管理執行者の手足として開票事務に従事していたに過ぎない旨主張する。

開票所における管理執行者は開票管理者及開票立会人等であることは勿論であるけれども、由利武雄は前記の通り本件選挙において市選管委員会の職員(臨時)に選任せられ当日は第二開票所において区分係として開票事務に従事していたものであるから、選挙の管理執行事務に従事していたことは明かである。

従つてこの点に関する原告等の主張は採用せず。

(ト) 原告等は第二開票所において西岡敏夫が抜取つた投票は確実に四十票であり、而もそれは何れも候補者に非ざる者の氏名を記入した無効票である旨縷々主張するので検討する。成立に争のない甲B第七号証の一、二、三、証人谷光次、同鈴江為一、同西岡敏夫、同小倉孝、同浜利喜雄の各証言を綜合すれば、

(1) 五月一日第二開票所においては鈴江為一は開票管理者として全般の開票管理執行の事務に従事していたもの、浜利喜雄は市選管委員会職員にして開票管理係長として又右管理者の下に開票事務全般の総指揮をしていたもの、西岡敏夫は市選管委員会の臨時職員に選任せられて小倉孝、森勝男と共に疑義票係として開票事務に従事していたものであること。

(2) 開票当日西岡敏夫は前記の通り小倉孝、森勝男の三人で疑義票係として疑義票の整理に当つていたのであるが疑義票係の事務完了(午後二時頃)の前なる午後一時半頃有効票と無効票の総数が略集計せられ、之等の合計が投票者総数より多いことが判明したので浜利喜雄はその辻つまを合わすのに苦慮し、疑義票係の西岡敏夫、小倉孝等に対し三十六枚位余るから善処して呉れと申向けた。その頃疑義票係の事務としては、他事記載のあるもの、単に符号とか記号のかいてあるもの、候補者に非ざる者の氏名を記入したもの、全々白紙の所謂白票等の区分整理をして、之を開票立会人の方に廻送していたのであるが西岡敏夫は前記浜利喜雄の示唆に従いその疑義票の内から約四十枚を抜取り小倉孝の手を経て之を浜利喜雄に手交し、同人において之を焼却したこと、而して右抜取つた投票は勿論開票立会人及開票管理者の点検を経たものではないことが認められる。

甲B第七号証の一及証人西岡敏夫の証言中には右抜取り票は疑義票の中候補者に非ざる者の氏名を記入した投票の中から四十枚を数えて抜取つた旨の証言部分あるも、甲B第七号証の二、証人小倉孝、同浜利喜雄の各証言に依れば小倉孝は西岡敏夫と机を並べて仕事をしていたものであつて、右抜取り票を西岡敏夫等の指示によつて自分のポケツトに入れて持出し、之を浜利喜雄に手交し、浜利喜雄は事務終了後選管委員会事務室で之を焼棄したのであるが、共に右投票の詳しい内容及数を確認していないことが認められ、又前記の通り西岡敏夫が抜取つたのも同開票所(加茂名小学校二階広間)で大勢の開票事務従事者の居るその現場において疑義票の区分整理中に行つたことである事実等を考合すれば証人西岡敏夫の前記証言部分はたやすく措信し難く、又乙第二号証の六、七の記載中前記認定に反する部分は前示証人浜利喜雄の証言に対比すればたやすく措信し難いところであり、甲B第十号証其の他によるも前記認定を覆すには足りない。

従つて右抜取り票が候補者に非ざる者の氏名を記入した無効票にして、その数は四十枚に確定しているとなす原告等の主張は採用し難い。

三、選挙訴訟の性質につき検討する。

選挙争訟における争の目的となるものは、特定の選挙区、開票区、または投票区における集合的行為(選挙期日の指定、選挙人名簿の確定、候補者の届出、投票用紙の調整、各選挙人の投票及その管理、投票の結果の審査、当選人の決定等多数の行為を包括する集合的行為を指す)としての選挙の全体の効力であり、当選争訟における争の目的は特定の選挙における当選人の決定の適否であつて、前者は選挙が全体として法律上の効力を保持しうるかどうか、換言すれば選挙の管理執行の手続が適法にして且選挙が自由公正に行われたものであるかどうかが争われるもの、後者は選挙が全体として有効に行われたものであることを前提として選挙会における当選人の決定がそれ自体適法な手続によつて行われたかどうか等の点が争われるのである。

選挙無効原因の一要件としての公職選挙法第二〇五条第一項に所謂選挙の規定に違反するとは所謂選挙の管理執行の手続に関する法規の明文に違反する場合のみならず、明文はなくとも選挙の自由公正な施行を著しく阻害する場合をも指すものと解せられている。(昭和二七、一二、四最高裁判所判決)又右無効原因の他の要件としての同法条に所謂選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合とは、もしその選挙規定違反がなかつたならば、選挙の結果につきあるいは異つた結果を生じたかも知れぬと思量せられる場合を謂うのであつて、必ずしも選挙の結果に異動を及ぼすことの確実であることを要しない趣旨であると解せられている。

而して投票又は開票の管理執行の事務に従事する選管委員会職員が右管理執行事務に従事中選挙の管理執行の規定に違反して偽造投票の混入或は投票の抜取り等の不正行為をなした場合においてそれらの投票数が算定出来ない場合には特に之等の投票の効力、投票の概算数等の観点から明かに選挙の結果に異動を及ぼす虞なしと認められない限りは選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものと解するを相当とする。

次に公職選挙法第二〇五条に所謂選挙の一部無効とは特定の選挙区全体に関する場合のみならず特定の選挙区内に数個の開票区又は投票区が設定せられている場合に一個又は数個の投票区若くは開票区における投票又は開票等の所謂集合的行為としての選挙全体の効力の無効である場合をも含むものと解せられる。

従つて原告等主張の選挙争訟に関する見解の内以上の見解に反する点は採用し難い。

四、以上の事実認定並法律上の見解に従つて本件を検討する。

(1)  原告等は前記由利武雄の投票用紙の窃取行為及投票混入の行為は夫々投票又は開票の管理執行者の全く夢想だにしなかつた事柄であり、又勿論右管理執行者の故意過失に起因するものでもなく、単なる事務従事者由利武雄の行為(殊に窃取の点は同人の犯罪行為である)に過ぎずして職務執行でないから、所謂選挙の規定違反ではない旨主張する。

然れ共由利武雄は前記の通り本件選挙において市選管委員会の選任した職員(臨時)として夫々投票及開票事務に従事していたものであり、而も右行為は何れもその事務執行中に行われたものである。従つて右行為が他の管理執行者等の故意過失に起因すると否とは暫く措き又右行為が同時に別個の犯罪行為に該当することあるもそれがために選挙の管理執行者の行為であることに変りはなく、従つて公職選挙法に所謂選挙の管理執行の規定に違反するものと謂うべきである。

従つてこの点に関する原告等の主張は採用せず。

(2)  原告等は右由利武雄が混入した偽造票は候補者山内安高の氏名を記入したものでその数は四十七枚であり、西岡敏夫が抜取つた投票は候補者に非ざる者の氏名を記入した無効票であつて、その数も四十枚と確定しているに拘らず、被告が本件各裁決をなすに当つては当初より本件選挙を無効とすべく予断を抱いて、之れが審理に臨んだ結果十分な審理を尽さず、従つて事実誤認を犯し右誤認した事実に基き不当にも本件選挙を無効と宣示した違法がある旨縷々主張する。

そこで由利武雄が混入した偽造票には何れも候補者山内安高の氏名が記入せられていたものなることは前記認定の通りにして、本裁判において之を確定することは公職選挙法第五二条の規定の趣旨に牴触するものではなく、又右偽造票は何れも落選候補者山内安高の得票として算入されたものであることは弁論の全趣旨によつて明かであるからこの点のみに限つて考察すれば右混入行為は他の候補者の得票に影響のないことは原告等主張の通りである。

従つて被告のした本件各裁決において右混入した偽造票が何人の氏名を記入したものかは公職選挙法第五二条に照して之を問うべきでないとした点は違法というのほかない。然れ共その数は約四十二、三枚であることは推認できるけれども原告等主張の如く四十七枚であることを確定することは出来難いことも既に述べた通りである。

加之右混入行為を他の事情から切りはなしてその行為が単に他の候補者の得票数に影響がないという点のみから直ちに公職選挙法第二〇五条第一項に所謂選挙の結果に異動を及ぼす虞なしと謂えるかどうかは後に述べることにする。又西岡敏夫が抜取つた投票は疑義票の中から抜取つたもので、その数は約四十枚であることは認定し得られるけれども、原告等主張の如く右は何れも候補者に非ざる者の氏名を記入した無効票にして、その数は四十枚と確定しうるものではないことは既に述べた通りである。

又右抜取りに当り之に示唆を与え或は之に関与した西岡敏夫、浜利喜雄、小倉孝は何れも市選管委員会の職員として何れも開票事務に従事中前記の如き所為に出たものにして、右は選挙の管理執行事務の従事者の行為にして、所謂選挙の管理執行の規定に違反するものなることは明かである。かように見てくれば被告が本件各裁決をするに当り当初より選挙を無効とすべく予断を抱いて審理を尽さず、因つて以て凡ての事実を誤認したものとは謂えない。

(3)  原告等は由利武雄が混入した偽造票は四十七枚であることは明確にして、且その四十七枚は何れも落選候補者山内安高の得票数に算入せられていることが明確になつている。又西岡敏夫が抜取つた投票は四十票であることが明確となつており、且その四十票は候補者に非ざる者の氏名を記入した無効票であることが判明しているのであつて且其の事は公職選挙法第六七条の規定による手続を経ずとも訴願乃至は裁判手続においてその効力を判定しうるのであるから、右は実質的には普通の有効投票を誤つて無効投票と認定した場合と同様に帰し、只異る点はそれが帰属不明であるというに過ぎない。

何れも結局は得票数の算定の問題であり、当選争訟の無効原因たりうることはあつても、決して選挙争訟の無効原因として主張したり、又はその審理の対象となるものではない旨主張する。

然れ共本件において混入、抜取りした投票の数は確定し得ないものであり且、抜取つた投票は候補者に非ざる者の氏名を記入した無効投票であることは認め難い。のみならず右抜取つた投票は開票管理者により有効無効の決定を経ていない正規の投票であることも既に述べた通りである。

してみると右抜取り票は約四十票の正規の投票にして、事実上有効無効を確定し得ないものである。

従つて右抜取りは単に有権者が不法に投票を拒否された場合の如く、有効投票として計算せらるべきものが日の目を見ずに闇にほおむられた場合と同様に原告等の所謂無効投票の単なる数の算定の問題として取扱うことは出来ない。本件は何れも投票並開票という選挙の管理執行事務に従事する選管委員会の職員数名により行われた選挙の執行管理に関する規定の違反行為にして、何れも投票、開票事務の従事中において投票用紙数十票の窃取、混入、抜取りの行為が行われたものであつて、斯様な行為自体既に選挙の自由公正を著しく阻害するものと謂うべきであるところ、右混入、抜取りに係る投票数を確定し得ない場合には選挙の無効原因ありと謂うべきである。

結局之等の行為は全体としてみれば、単なる当選無効の原因となるものとはいえず、選挙無効の原因となるものと謂うべきである。

従つてこの点に関する原告等の主張はその余の点の判断をまつまでもなく採用し難い。

(4)  原告等は仮りに本件行為が選挙の無効原因に該るとするも、その瑕疵は選挙全体の効力に影響を及ぼす程重大なものではなく、毫も当選の結果に異動を及ぼす虞はない旨縷々主張するけれども(請求原因事実(四)の通り)前記認定の諸事情に照せば前記認定の投票用紙の窃取、混入、抜取りの所為は全体として、本件選挙の効力に重大な影響を及ぼすものと謂うべきである。加之前記抜取り票が候補者に非ざるものの氏名を記入した無効票であることは認められず、何れも正規の投票にして事実上有効無効を確定し得ないものであること前叙の通りにして、従つて右抜取り票の中から原告等主張の二十票の有効投票が出ることはあり得ないとは謂えないから、前記投票の抜取り行為が選挙の結果に異動を及ぼす虞なしとは謂えず、却つて右抜取りの投票数は約四十票であるから、右は次点者と最下位当選者との得票差二十票を遙かに上廻つていること明かであつて、本件各所為の内これ丈とつてみても選挙の結果に異動を及ぼす虞ありと謂うべきである。従つて、前記認定の各行為は全体として選挙全体の効力に影響を及ぼすものであり且、選挙の結果に異動を生ずる虞ありと謂うべきである。原告主張の爾余の事情を検討するも右認定を覆すには足りない。

従つてこの点に関する原告等の主張は採用し難い。

(5)  叙上説示によつて既に本件選挙は少くとも第二開票区に関しては無効であると謂うのほかなきことが明かである。

従つて本件各裁決において示された前記の如き事実認定及法律上の見解には一部判示と異る処はあるけれども結論において右と同旨に出たので少くとも右各裁決中第二開票区の選挙を無効とした点は適法であり、之を取消すべき理由はない。

仍て第六、七号事件の原告等の此の点(各裁決の取消)に関する請求は理由がない。

従つて亦本件選挙の有効確認を求める原告等の請求も亦理由がないものと謂うべきである。

叙上説示によつて原告等の本訴請求は何れも之を棄却すべきものとする。

第三、昭和三十年(ナ)第五号事件原告等の請求について判断する。

原告等は本件選挙の無効確認を求めているけれども、本件各裁決の趣旨は前記の通りにして、弁論の全趣旨によれば被告は現に第二開票区に関する選挙の無効であることは之を争つていないものと認められるから、原告等の請求の内第二開票区に関する選挙の無効確認を求める部分は理由がない。そこで進んで第一、第三開票区の選挙の無効確認を求める部分について順次判断する。

一、主として第二開票区関係について。

(1)  徳島市選管委員会職員由利武雄は昭和三十年四月三十日同市佐古第一投票所において投票事務に従事中市議会議員投票用紙五十枚束一束を窃取し之を長女(当時七歳)をして自宅に持帰らせた上、同人の父由利直衛に交付したこと。右由利直衛は同日午後二時頃同市議会議員候補者たる原告山内安高の選挙事務長深谷政一と共謀の上投票用紙四十七枚に氏名(何れの候補者の氏名なるかは不明)を記入して投票を偽造し、翌五月一日同市第二開票所たる加茂名小学校に之を持参して同所において開票事務に従事中の前記由利武雄を場外に呼出し右偽造投票用紙約四十七枚を手渡し右由利武雄は現に開票中に開票立会人のいる席上秘かに右投票用紙全部を開票中の投票に混入したのである。そこで開票の結果において投票者総数と投票数とは当然に一致を欠くに至つたので、同開票所の同市選管委員会職員西岡敏夫はその数を合致せしめるために苦慮し、開票中同現場において投票中より約四十枚を抜取り同係員の小倉孝の手を経て同選管委員会選挙係長浜利喜雄に手渡し、同人の手によつて之を廃棄処分したことは何れも当事者間に争がない。尤も原告阿部芳太郎は右抜取り票は同人への投票である旨主張するけれども之を認めるに足る証拠がないから採用せず、

又原告岡田亀太郎、同舟越縫夫、同阿部芳太郎、同篠原俊平、同本田益徳は前記混入した投票は由利武雄が窃取した五十枚の投票用紙に記入したものとは断定し難い旨主張するけれども之を認めるに足る証拠はないのみならず却つて証人由利武雄、同由利直衛の各証言によれば、右混入した投票は何れも前日由利武雄が窃取した投票用紙に記入せられたものであることを認めるに足るから、この点に関する右原告等の主張は採用し難い。

又右原告等五名は西岡敏夫が抜取つた投票は候補者に非ざる者の氏名を記入したもの即ち無効票であるとは断定できない旨主張するところ、該主張は被告において明かに争わないから之を認めるに足る。

(2)  原告等は以上の事実関係を検討するに、右由利武雄、西岡敏夫、浜利喜雄等の行為は投票並開票等選挙の管理執行をなすべき職責を有する選管委員会職員のなした不法行為にして当然に公職選挙法中選挙の管理執行に関する規定違反の行為に該当するものであると同時に右行為は選挙の結果に重大な影響を及ぼしその自由公正を害するものと謂うべきである。従つて右は単に第二開票区の選挙無効の原因たるにとどまらず、本件全開票区(第一、第三開票区を含む)の選挙を無効ならしめるものである旨主張する。仍てこの点につき判断するに前示第二において叙述したと同様右由利武雄等の所為は少くとも第二開票区における選挙無効の原因となるものと謂うべきである。然れ共右に認定の事実のみを以ては未だ第一、第三開票区の選挙をも無効ならしめる原因ありとはいえないからこの点に関する原告等の主張は理由がない。

原告等は被告のなした本件裁決において第二開票区以外の開票区にも次項に述べる如く第二開票区におけると同様の不正があるに拘らず、全開票区の無効を認めなかつたのは不当である旨主張するけれども原告等の主張事実は訴願において主張したことは認められないから裁決においてその点につき審理判断しなかつたとするも違法とはいえない。

従つてこの点に関する原告等の主張は理由がない。

二、主として第二開票区以外の区域について。

(イ)  原告等は昭和三十年五月一日第一開票所で開票記録係たる橋本仁助が投票者総数と投票数を一致せしめるため白票十数票を投票中に混入したところ、そのため却つて投票数が投票者総数より多くなつたので市選管委員会職員辻八郎が四票又は二票を抜取つた事実がある。而も右抜取り票は開票立会人の意見を聴いて開票管理者の決定手続を経ていないものであるから白票と断定することは出来ない旨主張し、被告は原告主張事実の内辻八郎が二票を抜取つた事実以外は之を争う。証人谷光次、同橋本仁助、同辻八郎の各証言によれば橋本仁助は本件選挙において市選管委員会の臨時職員として、昭和三十年五月一日第一開票所(内町)で記録係として開票事務に従事したこと、辻八郎は市選管委員会職員として右同日同開票所で総務係として開票事務の総括的な雑務に従事していたところ、開票事務の終了時頃に投票者総数と投票数が一致せず、後者の方が前者より多いことが判明したので、之を一致せしめるのに苦慮した挙句やむなく、白票二票を抜取つたこと、同人は右事実に因り同年七月六日徳島簡易裁判所で投票不正増減罪に因り罰金一万円に処せられたことが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。然れ共原告等の立証を以ては橋本仁助が白票十数票を混入した事実は認め難い。而して公職選挙法第六七条によれば投票の効力は開票立会人の意見を聴いて開票管理者が決定すべきことは原告等主張の通りであるけれども、選挙又は当選争訟において権限ある選管委員会又は裁判所が右の手続を経ていない投票の効力を確定することは何等の違法はないと解するを相当とする。従つてこの点に関する原告等の主張は採用し難い。

(ロ)  同年四月三十日渭東第一投票所において当時市選管委員会職員であつた坂野茂樹が徳島県板野郡土成町宮川内に居住しながら徳島市選挙人名簿に虚偽の登録申請をなし、市議会議員選挙に詐偽投票を行つたこと、右事実により同人は徳島地方裁判所で禁錮四ケ月執行猶予二年公民権停止五年の判決を受けたこと、右投票所は第一開票区域内に属することは被告の争はないところである。

叙上認定の如く前記辻八郎の所為は選管委員会職員による選挙の管理執行に関する規定違反の所為と謂うべきである。然れ共、辻八郎が抜取つた投票は二票の白票であり、而も右は投票数を合わすためやむなきに出でた処置であること前記の通りであるから、この一事を以ては選挙の結果に異動を及ぼす虞ありとは謂えず、又坂野茂樹の所為は選挙の管理執行機関の管理執行に関する規定違反ではなく、当選無効の原因となることはあつてもそれのみでは選挙無効の原因とはなり得ない。従つて右二個の事実のみを以てしては第一開票区の選挙無効の原因ありとは謂い難いからこの点に関する原告等の主張は理由がない。

原告等は本件選挙は全市一区であるから第一開票区における辻八郎の二票の抜取り行為及坂野茂樹の一票の詐偽投票は夫々それ丈では選挙の結果に異動を生ずる虞なしとするも、既に第二開票区において約四十票の抜取りがある以上当然に之を合算して選挙の結果に異動を生ずるか否を決定すべきものなるところ、最低当選者と次点者との得票差は二十票であるから右合算額は之を超えるものであり、従つて選挙の結果に異動を生ずるものと謂うべきである。従つて右の事実は少くとも第二開票区のみならず第一開票区の選挙無効の原因と謂うべきである旨主張する。然れ共既に述べた如く第一開票区における坂野茂樹の行為は選挙無効の原因とはならず又辻八郎の抜取り票は白票の二票であるから前者については既にこの点において理由がなく、後者については前記第二開票区の約四十票に加算して考慮するもそのこと丈では選挙の結果に特段の消長を来すものとは謂えないからこの点に関する原告等の主張は何れも採用し難い。

(ハ)  原告等主張の第三開票所における本件選挙と同時に執行せられた市長選挙において市選管委員会職員貴志恭次、須本文武等が市長選挙の投票中より二十四票を抜取つた点及その一週間前に行われた県会議員選挙の際における貴志恭次の二票抜取りの点について検討する。

証人須本文武、同谷光次の各証言に依れば原告等主張の通り貴志恭次及須本文武等が市長選挙の投票中より二十四票を抜取つたこと及その一週間前に行われた県会議員選挙の際に貴志恭次が富田開票所で二票を抜取つたことが認められる。

而して証人浜利喜雄の証言並弁論の全趣旨によれば、選挙においては選挙人が書損又は投票用紙の持帰り等をするために、投票数が投票者総数よりも少いことは往々ありうる現象であることが認められる。然れ共投票数が投票者総数よりも多いということは通常あり得ない事柄であつて、かような場合には不正増票の疑があることは原告等主張の通りである。

然れ共選挙争訟の無効原因としては唯かような事実が存するのみでは之を肯定することは出来ない。

それで第三開票区の選挙の効力については原告等の主張に従い同一筆跡の存否、投票用紙の受払の杜撰並その行衛不明等の点につき順次検討した上之等の点を綜合して判断することとする。(四の(イ)末段参照)

三、投票用紙の受払並保管状況の点について。

成立に争のない甲A第十一号証同第二十号証の一乃至七、証人谷光次、同近藤健介、同坂野茂樹、同須本文武、同辻八郎の各証言によれば、(イ)本件選挙において市選管委員会は同時に執行された市長選挙の投票用紙と共に本件市議会議員選挙の投票用紙十万枚を徳島刑務所に印刷方を依頼したのであるが、投票日の十五日位前に選管委員会職員坂野茂樹、同近藤昌夫が同刑務所技官近藤健介より同用紙三万二千枚包二個、三万六千枚包一個のほか端数一千百三十四枚包一個の合計約十万一千百三十四枚を夫々ハトロン紙に包装し右枚数を表記した儘受取り、即日その内右端数の包み一個はそのまま不在投票係の職員須本文武に手交し同人においてはその翌十五日選挙告示の日から不在投票者に之を交付するため勤務時間中は自己の机の抽斗中に、勤務時間外は市選管委員会事務室の金庫にその責任者貴志恭次を通じて預けていたものであり、その余の三個の包の分は同日市収入役の金庫に保管し投票数日前に之を取り出して五十枚束に帯封して各投票所への配布数丈を市収入役金庫に保管し、之を投票に際して各投票所に配布し残りは委員会事務室の金庫に保管したこと、而して後日本件事件が発生したので同委員会において使用済及未使用分と由利武雄の窃取した五十枚を考慮に入れて逆算すれば、約十万八百六十三枚存在していたことが判明したこと、従つて刑務所から納入したとされている枚数と委員会において逆算した結果出て来た枚数との差は約二百七十三枚であること、

(ロ)刑務所においては印刷の都合上百枚毎に合紙を入れて小さく切断するのであるが、その百枚宛の分については一々枚数を数えてはいないこと。又市選管委員会においても当初刑務所から収納する際は勿論その後、五十枚束に帯封した残余の分についてもその実数を確認していないこと、投票用紙の保管、受払が厳重に行われてなかつたこと、不在者投票に用いた用紙の管理が不十分であつたことが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。

之等の事情を考合すれば右刑務所側から納付した投票用紙の枚数は前記包装包の表記の数量に比しあまり多くの差異ありとは認められず、又市選管委員会においては刑務所からの収納に当り一枚一枚数えなかつたことはやむを得ないとするも右収納後における投票用紙の保管、受払の管理等の点につき十分な措置がとられてなかつたため相当多数の投票用紙の所在不明の結果を生ぜしめたものと認めるのほかはない。

然れ共原告等の立証を以てはその主張通りの数の投票用紙の所在不明の事実は認め難い。

而して右投票用紙は市長印まで印刷されておりそのまま投票用紙として使用し得る重要なものであることは被告の争わないところにして、市選管委員会は勿論投票用紙の毀損散逸を防ぎ厳重管理の責任がある。

然れ共右の如き投票用紙の保管受払の不備のため投票用紙を散逸したとしてもその一事のみを以て直ちに本件選挙全般の無効原因となすには足りない。

四、主として同一又は類似筆跡の投票の存否について。

(イ)  成立に争のない甲A第十一号証、同第十二号証と証人田中繁夫、同岡本安晴の各証言及原告岡田亀太郎の供述を綜合すれば本件選挙の全開票区を通じて、その投票中には、代理投票又は親子兄弟姉妹等の投票による同一又は類似筆跡の投票を除外するも少くとも数名の候補者の投票につき最高二十票(候補者一名につき)の同一又は類似筆跡のものが存在していた事実が認められ、之を左右するに足る証拠はない。(原告等の主張事実の内右認定を超える部分は採用し難い。)従つて之等の投票は何人かによる不正投票であることを疑わしめるものがある。然れ共原告等の立証を以ては右投票が何人の手により如何なる候補者との結付きに依つて行われたものであるかを認めるには足りない。従つて該事実のみを以ては或は特定の候補者の当選無効の原因となることはありうるも選挙無効の原因とはなり得ないものと解せられる。

原告等は同一又は類似筆跡投票の多数存在する事実並投票用紙の保管受払の杜撰及その行衛不明の事実に前示二の(ハ)にのべた第三開票所における貴志恭次、須本文武等の市長選挙の投票抜取り行為とを考合すれば第三開票所における本件市議会議員選挙に付いても第二第一開票所におけると同様の投票の不正増減又は詐偽投票が行われたものと察知せられる旨主張するも、前記の如く右不正投票が何人の手によつて如何なる候補者との結付きを以て行われたものであるかの点につき立証のない本件においては既にこの点において理由がない。従つてこの点に関する原告等の主張は採用し難い。

(ロ)  主として昭和二十六年における同市選管委員会職員の不正行為について。

前記認定の二(1)(ハ)の事実に証人谷光次、同須本文武、同米延保之の各証言によれば、昭和二十六年の市議会議員選挙の際、当時の市選管委員会事務局次長であつた米延保之と市選管委員会職員須本文武は共謀の上、選挙事務室及富田開票所で二回に亘り投票用紙六、七十枚を窃取し、開票所で某候補者の氏名を記入し、その内約六十枚を投票函に混入したこと、米延保之は右事実に基き昭和三十年十二月二十二日徳島地方裁判所で窃盗罪に因り懲役一年六月に処せられ、須本文武は右事実及前記二(1)の(ハ)において認定した事実に基き懲役一年執行猶予三年公民権停止の判決を受けたことが認められる。

原告岡田亀太郎、同舟越縫夫、同阿部芳太郎、同篠原健平、同本田益徳は、(イ)右米延保之、須本文武は右判決に対し高松高等裁判所に控訴中、同三十一年五月二日控訴棄却の言渡を受けた旨(ロ)右両名は前記事実のほか昭和二十六年の徳島市議会議員選挙の際不正投票約四十枚のすり替えを行つた事実がある旨主張するけれども之を認めるに足る資料がない。

尚原告等は(A)昭和二十六年の選挙の際、鎌田現市会議員に対し投票用紙百五十枚を金五万円で売込に来たものあり、(B)又市長候補者桂兵次郎の所へも投票用紙を売込みに来たものがある、(C)又選管委員会事務局長郡磯吉、同管理係長貴志恭次、元選管委員会事務局次長米延保之等が共謀で公金十数万円を横領した事件で何れも処分せられた事実がある旨主張する。

証人桂兵次郎の証言及原告岡田亀太郎の供述によれば昭和二十六年の市長選挙の際市長候補者桂兵次郎の所へ投票用紙を売込みに来たものがあることが認められる。

然れ共原告等主張事実の内右認定事実のほかの点については之を肯認するに足る証拠がないから採用し難い。

(ハ)  原告等は以上述べた通り市選管委員会職員は既に昭和二十六年より同三十年四月の本件市議会議員選挙に至るまで互に気脈を通じ斯種違反行為を行つたものと察知することができる。

かような選管委員会職員による大量の違反行為が昭和三十年五月以来摘発されて一般市民に報道せられたので、一般市民は如何に選挙の自由公正が蹂躙せられたかに驚愕し且忿怒の念に燃え上り、此際全面選挙をやり直し公正な選挙による公正な市政の行わるべきことを渇望する声は既に一般市民の輿論となつている事情がある旨主張する。

既に前示各事項について叙述したところによれば、市選管委員会職員中には昭和二十六年行われた市長又は市議会議員選挙と本年四月三十日の本件選挙又は市長選挙に当り単独或は数名共同して前記の如き選挙の管理執行規定違反等の不法行為をなした者が相当数存在するものにして、此度徳島地方検察庁の摘発によつて、既に司法処分を受けた者もあり、斯様な実情が白日下にさらされた以上、選挙人たる徳島市民は勿論他の一般人から見ても驚愕と忿怒の念措く能わざるものあるは寔に必定であると謂うべきである。然れ共又選挙は多大の費用と労力を必要とするものにして、一部の違法のために、その影響のない部分の選挙まで無効とすることは一部のために他の部分の犠牲を招くものであつて、之れ又許されない事項である。従つて全般的な立場から見て一部の違法が選挙の結果に異動を及ぼす限度において之を無効とすべきことは法の明定するところである。そこで叙上説示の諸々の事情を彼是考合するに、之等の事情は結局本件選挙につき第二開票区に限りその結果に異動を生ずる虞あるにとどまり、第一、第三開票区のそれには異動を生ずる虞ありとは認め難い。

原告等は本件各裁決に対し違法ありとして縷々主張しているけれども結局右と同一帰結に出た本件各裁決は勿論適法にして第五号事件の原告等の本訴請求の内第一、第三開票区の選挙無効の確認を求める部分はその理由なきものと謂うべく結局本訴請求は之を棄却すべきものとする。

仍て第五号、第六号、第七号事件を通じ訴訟費用の負担につき夫々民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 橘盛行 松永恒雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例